橋渡剣は、牢屋の天井パネルを1枚外すとそこから顔をのぞかせた。下には、エツタンカーメン出身者だった陣光良成(じんこう よりなり)が囚われていた。陣光は、橋渡の存在に気がついた。
陣光「あなたは、まさか」
スルスルとワイヤーで降りてくる橋渡。そして、陣光の口を塞ぐ。
橋渡「自己紹介と挨拶はまた後で。とにかく黙って付いてこい」
と、突然ガチャッとドアがあく。その、音に反応する橋渡と陣光。
ギィーとドアがあく。
看守だ。
看守がライトを当てるとそこには、陣光が一人、ポツリと座っている。
看守の真上にワイヤーでつるされた橋渡がじっと体を固める。
看守「なにしてやがった?ボヤボヤぼやきやがって!」
陣光「いえ、とくに」
看守「そんなわけねえだろ!え??
なんとか言ってみろ!さては、てめえ、だつごくでもこころみてたんじゃねえだろうな」
あたりを見回す看守。そして上をライトで照らす。
そこには、へんてつもない天井以外に何もなかった。
天井裏で息を飲む橋渡。
看守が部屋を出ると、橋渡は、すぐに戻り陣光にロープで引き上げる。
こうして、陣光は脱獄した。
橋渡の隠れ家での陣光との会話。
陣光「政府は、ずっと昔から、人口コントロールの術を探っていた。人口をコントロールした上で、既得権益の連中、それは、資本主義社会で成功したもの達じゃない、長者番付にも乗らないくらい、裕福な連中さ。その連中を記事にすれば消されるくらいのね。今のメディアを含めた企業のトップはどこまで分かってるか分からない。昔は知ってるやつしかトップになれなかったし、いや、もっとも別の話にすり替えられて間接的に脅されてたかな。情報源に接触すると殺されるってね。情報源も怖くて結局取材には応じないし、疑われたらこの世界はアウト、接触もされないように行方をくらましてるから。たまに、急な体調不良に陥る人がいるけど、あれは健康を害した訳じゃないんだね。毒を盛られたんだよ。しかも、今の警察の、技術じゃなにも検出できないよう巧妙なやり方でね」
橋渡「さっきあなたは、人口をコントロールすると言っていたが、一体なんのために?」
陣光「あんた、ほんとにわかってんのかわかってないのかわからない質問をするね。地球の星に、限られてるものがある。なんだと思う?」
橋渡「わからないね」
陣光「資源だよ。食料、衣服、住居、すべての消費活動にはこの資源が必要になる。人が1人増えればその分の資源が必要になる。だが、人が増え続ければ資源はどうなる?」
橋渡「足りなくなる」
陣光「その通りだよ。あんたが、世界の支配者だったら、必ず考えることだろう?」
橋渡「あぁ、そうかもしれないな」
陣光「じゃあ、とあんたは思う。人口全てを消してしまえば全てを独り占めにできる。もし、あんたならやるかい?」
橋渡「いや、」
陣光「そう!もちろんやらない!それは、非人道的だから、とかいう理由ではない。それは後付けだ。もっともっと大事なものがある」
橋渡「他の人を生かしておく理由。利用するため?」
陣光「そう、その通り。それは、召使をとっておきたいということだ。金を払えばモノやサービスを提供してくれる人々を残しておきたい。そして、文明を発展させる人々を置いておきたいのさ。」
橋渡「でも、そんな大勢の人々を一体どうやって統率するんだ?」
陣光「どうやって、ってもうやってるじゃないか。奴隷たちには、三権分立させ、且つ富を再配分することで力を持ちすぎる人々がでないようにする。そして、秩序を保てるよう、人道を説く。その組織を作っておく」
橋渡「つまり、国を作った」
陣光「そのとおり。だが、人というのはエツタンカーメンにとって脅威となりつつあった。25代目が、それに気がついたのだ。このまま増え続ければ資源が枯渇する、とね。そして、一番のら脅威が、核兵器だよ。これは、エツタンカーメンにとって誤算だった。あんなもので戦争が万が一起これば、地球という資源がなくなってしまうからね」
橋渡「先進国型の人口コントロールに成功したのがハポネ、というわけか」
陣光「その通り。先進国ではどこも成功しているけどハポネ程、うまくいった例はない。しかし、そこに出てきたのが老齢化という現象だった。これで生産性が急減する。生産性の無い人間を生かしておく必要があると思うかい?」
橋渡「おそらく」
陣光「おそらく、ノー、だろ?」
しばしの沈黙。
陣光「人道を説かれた今の人々は、富の再分配で生産性の無い物まで助けようとする。資源を生産できないやつに資源を与えてるようなものだ。どんどん首がしまっていく。だが、世の中うまくできてる。そうなると今度は資源を奪い合うようになる」
橋渡「戦争か」
陣光「本来は歓迎だが、核ができた今、できるだけしてほしくない。また、それは国家予算を軍事目的への割り振りの増加を招いた。これは、文明の発展を担う民間には本来避けてもらいたいものだ」
橋渡「お前らは一体人をなんだと思ってやがるんだ」
陣光「そう、熱くなるな。もし、その考えに100パーセント傾注してれば牢獄なんかに逃げ込みやしないさ。あそこにいたところでもって5日だったけどな。ともかく、戦争以外にも人類には道がある。結局は人口と資源の問題だ。人口を減らすのではなく資源を増やせばいい。そして、人口増加と資源の増加を確約すれば、エツタンカーメンは支配を緩める」
橋渡「緩める?というのは?」
陣光「実は、生産能力という点でいえば、人類はもっともっと生活の質をあげることができる。しかし、これを、あげすぎると、労働しなくなる。だからあえて人々を働かなくてはならないくらいの給与水準に、とどめてる」
橋渡「確かに、これだけ文明が栄えても労働時間は変わっていない」
陣光「それが、法人というものの正体さ。うまく考えたのか?偶然の賜物か」
橋渡「陣光、いまハポネ、いや、人類はあんたの助けがいる。エツタンカーメンに精通したあんたの助言が必要だ。力になってくれるか?」
陣光「俺1人では、凡人1万人くらいの力にしかなれんよ。エツタンカーメンはあんたが想像する以上に巨大で強力なんだ」
橋渡「大丈夫だ。幸いにも、地球人口分くらいの力は結束できる」