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金曜日, 2月 28

大海竹流事務所の躍進

大海竹流事務所は、新しいエンターテイメントの形を世に流した。
それは、小説、音楽、動画、アートの全てを組み込んだものだ。
ブログが収益源。
ブログの物語は基本的に無料だが、そのフィクションに登場する物が売られている。
それは、本、音楽、アート、動画と様々だ。
そのコンテンツを主な収入源としている。
物語は、世界の動向を予測するインテリジェンスを交えたもの。
その収益基盤の確立をし、それを元にアイデアを具現化する仕組みづくりが生まれる。
大海竹流事務所は単なるエンターテイメントの枠組みを越え人類の進歩に寄与する存在となった。

水曜日, 2月 12

パッカーズの結成秘話① ゴールデンゲートでの出会い

黄金町のゴールデンゲートと呼ばれるアーケード街。
その入り口付近で青年が一人路上ライブをしている。
青年の周りには見る見る人が集まってくる。
青年の前で座って聞くのが5人、
その後ろで立って聞いてるのが10人、
それより少し離れて柱にもたれたり、立ち止まって聞きいる人30人程度が彼を囲う。
人々が集まるにつれて、青年の顔が明るくなっていく。
手拍子が始まると、彼はにっこりと微笑みながら目を瞑った。
この時間が世界で一番好きだった。
世界の時間が止まる時間。
真っ白でなにもない空間に歌声だけが通り抜けていく。
ふと、さっきまでじぶんの歌声と一緒に聞こえていた街のざわめきが、電源を切ったかこかのように静かになる。
妙に静かだ。
あれ、と青年は間奏ようにのギターを弾きながら目をゆっくりとあける。
え、なんで?
目の前で座って聞いていた人、その後ろで立っている人、それより少し離れて柱にもたれたり、立ち止まっていた人。全員が目をつぶって、眠ってしまっている。
え、なんで、なんで寝てるの?
アーケート街の人々の流れは彼の周りで滞っていた。彼の名はマイケルという。


ところとに日付が変わってアーケード街のゴールデンゲートの入り口で威勢のいい声が聞こえる。
「夢売ってるよ。そこのお兄さん、夢あるかい?ないなら夢を売ってるよ!一個500円だよ」
その日は、土砂降りの雨で、台風がやってくるとの事で、人通りはほとんどなかった。
でも、彼はこんな調子で晴れの日だろうが雨の日だろうが夢を売っているのである。
路上で一畳程の大風呂敷にポストカードサイズの絵を並べてある。
風呂敷の端のすぐ奥にちょうど腰掛けになるくらいの切り株が置いてあり、
そこにトムは座って大きな声で客引きをしている。
「今なら一番人気、お金持ちになるって夢をなんと特別価格、500円!
普通の夢と変わらない?
この夢は億万長者になる夢だぞ?
安いもんでしょう?ええ?そうでしょう?
他にもたくさんあるよ、100以上はある!
よって見てってくださいよ!
自分の夢は流石に売れない、非売品。
だけど、俺の夢よりもっと素敵な夢をたった500円で譲るよ!
さーさ、買った買った〜!」
彼の名前はトム。毎日、ここ黄金町のゴールデンゲートの歩道で自作のアートを販売しているのだ。
「そんなに急ぎ足でどこに行くの?
夢も無いのに命だけ大事にしてどう生きて行くの?
台風から隠れるよりも、人生の嵐を乗り切る為の道標が先に必要なんじゃないかい?
この台風でも、彼の前を通ると大抵の人は足を止める。
台風が無ければいつもは人だかりで夢が買いたくても買えない。
だから、夢を買うのが夢、なんて夢を持つ人々もでて来たくらいだ。
だが、さすがに台風が直撃する頃にはひとっこ一人いなくなってしまった。
トムは一息ついて、大振りのリュックから袋を取り出して、そこから一枚の絵を取り出した。
楽器を弾く三人のミュージシャンと、それを囲うように寄り添う世界中の人々が、みんな笑顔で歌っている絵。
「音楽で世界を回る」
そう一言大きく描いてある。
裏には
「歌詞は、たった3つの言葉で出来てる。
世界中どこにでも存在して、シンプルで素晴らしい言葉。
人間ってみんな一緒なんだ。そう思える言葉。
それを、歌いながら世界中を回る」
とある。それをマジマジと読んでトムは、
「これは売れないよ非売品」
と小さくつぶやく。
「それ、なかなか素敵な夢ですね」
トムは、はっとする。
後ろには、ケンの持つ夢カードを覗き込む青年が立っている。
トムはとっさにそれを隠す。
青年はトムにお構い無しに話す。
「そんなことしてみたいな。歌って世界を回る、か」
トムは慌てる。
「ちょっと、それ口に出して言わないでもらえる?これは、非売品で、極秘の夢だから」
青年はひるまない。
「‥どこにでもあって、シンプルで素晴らしい言葉。なんだろう?愛してる、とか?」
固まるケン、顔の血の気がみるみる引いていく。
そして、トムは眉毛を下げて、力なういう。
「おま、何で言っちゃうの?」
きょろきょろ回りを見ながら、人差し指でシーッとジェスチャーをする。
「ハハ、誰も聞いて無いですよ!ごめんなさい。本当にすごいいい夢だなと思って!」
トムは、ハー、とため息をついてカードを放り投げる。
「もうやめた。この夢いらないや」
「もうすてよ!」
絵がゴールデンゲートの汚れたフロアに落ちる。
それを、拾い上げる青年。
「捨てるなら、もらっていい?この夢?」
「だめ、君はだめだ」
トムは、青年の手からその絵をさっと奪い返し、かばんにしまった。
青年は頭をかきながら言った。
「ねえ、お兄さん。僕にも、なんか夢、くれませんか?」
「ん?ないの?夢」
「いいよ。お金もらうけど」
トムのまなざしが変わる。
「君は何をお仕事にしてるの?というか名前は?」
青年は答える。
「僕、ジョニーといいます。ミュージシャンやってるんです」
トムは幾分驚いた顔をしながら、まじまじと彼のつま先から頭まで見直した。
「見た目的にはフォークシンガー?それなら尚更あの夢は見せたく無かったなあ」
ジョニーは笑う。
「そうですね、あの夢欲しいんですけど頂けませんか?」
ジッと目を見るトム。
それをジッと見つめ返すジョニー。
「ちょっと待ってな」
トムは何かを描き始める。
「この夢なら売ってやるよ」
トムは、即興で書き上げた絵をジョニーに手渡す。
それは
「大勢の観客の前で歌う」
という夢だった。
笑顔でその絵を受け取ったジョニーの表情が、急に硬くなる。
「こんな夢なら要らないよ」
絵をトムにつき返す。そして、絵の代金を入れる箱に、500円玉を入れたかと思うと、その場を立ち去ろうとする。
「おい、ちょっと」
といって戸惑うトム。
「でもいいもの見せてもらった。またいい夢できてないか見にくるよ。
もう少しマシな夢作っておいてよね、こっちは夢がなくて困ってるんだからさ。
非売品の夢、いつか売ってよね!」
ジョニーはアーケード街を後に嵐の街に入っていく。
「おい、待てよ」
あっという間に風の中に消えて行くジョニー。
「話はこれからだったのに」
何かいいたげに嵐を見つめるトム。 


パッカーズの結成秘話② ミュージシャンの夢の会場 に続く
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火曜日, 2月 11

パッカーズの結成秘話② ミュージシャンの夢の会場

ジョニーは人ごみを抜けて暗い路地の入り口に立ち、ウロウロ考えてる。

そして立ち止まった。

「最後、これが最後だ」

自分に言い聞かせるように何かを言うと、路地の真ん中にある腰あたりまでの高さしかないドアを開けてかがんで中に入っていく。

そして暗い階段をひたすら下って行く。

五分ばかりひたすら螺旋階段を下る。レンガ造りの壁を伝い1階ごとにあるろうそくだけを頼りにして下に下っていく。

20階近く降りたたろうか?階段がなくなったところに扉がある。

今度は、160cmくらいのそれなりの高さの胴の扉だ。扉の両脇で燃える蝋燭が、その表面を照らしている。

ジョニーは扉を開けた。

開けるとそこは舞台袖になっていた。

木造の板で張られた床に、上から垂れ下がる煙幕。舞台袖は、四角く10㎡くらいあり、入り口からトランペット、ギター、ピアノ、トランペット、ギター、ピアノとぐるりと並べられてる。ただ、まるでジョニーを導くように、舞台に続く袖には楽器はおかれておらず、舞台の明るい光を舞台袖から煙幕の間から垣間見ることができた。

舞台の向こうから群集の声が聞こえる。

ジョニーは四角い舞台袖の真ん中にギターケースを肩から下ろした。そしてギターケースの扉を上に開き、ギターを取り出した。キャップをかぶった男が無線に話しながら走り寄ってくる。「きました。ジョニーさん舞台袖入りしました」 無線をポケットに入れるとその男は開口一番、見上げるジョニーにいった。




「おい、何してたんだ?次お前の出番だぞ。メンバーズカードを、見せろ」




ポケットからカードをだすジョニー。虹色がちりばめられたような鮮やかなカードだ。




男は、カードを見ると、「OK」と言い、




「これから予約した時間には遅れないでくれよ。今日は30分だな。1万円だ」と言った。




そう言われるとポケットからクシャクシャになった1万円を取り出すジョニー。




男は、その1万円をジョニーから受け取ると、




「まいど。早く!もう舞台に上がって!」とジョニーを舞台に押し出した。




フーッと一息をいれ静かにめをつむるジョニー。




心を静めて舞台のセンターに向かう。集中したジョニーの耳には何も届かなくなり、静寂の中に自分の足音だけが鳴り響く。




コツン、




コツン、




コツン、




ジョニーが目を開ける。







彼は一瞬にして現実に引き戻される。

眩しいライトに照らされ、目の前には東京ドームを超える広さに満員のお客、その歓声の風が彼にワッ、と吹き付ける。

ジョニーの目は輝いて、口は大きな三日月みたいにニイッと笑う。そして手はギターをかきならし、喉、いや体全体は歌を、まるで群衆にダイブしてくかのように歌い始めた。

東京ドームの満員の客は彼の声でさらに熱狂した。










観客が全員起立して曲を聞く中、ガラスが貼られた部屋から静かにそれを観察するように見るスーツ姿の男がいた。

顎鬚は二ミリ程度にきれいに整えられており、舞台の赤や黄色の照明を反射させるアイドロップのサングラスをしている。彼は、ここのオーナー、ドン。







ガチャとドアが開く。ドアを開けたのはトムだった。




「やあ、久しぶりだね、トム」




ドンは、会場を眺めつつ、振り返りもせずにそう言った。




「おっさん。今日は話があってきたんだ」




トムはドンの椅子を自分のほうへくるりと回した。







「なんだ?またやる気になったか?舞台に上がって?」




ドンはくるりと舞台に向きなおる。




それを追いかけるようにトムは、ドンの前に回る。




「いや、違うよ。今歌ってる奴、ジョニーを俺の仲間にした。だから、あいつを解放してやって欲しい」







「解放?ハッハッハ!!まるで束縛してるみたいに。俺はしてないぞ。お前も分かってるはずだろう?あいつが勝手にここにくるんだ。実に楽しそうじゃないか。ほら、すごく楽しそうに歌っている」




舞台の上では、ジョニーが実に爽快に歌っている。ジョニーがジャンプすれば会場もジャンプする。大盛り上がりである。




「お前にはあそこで歌う気持ちがわかんないんだろうな。お金を出してでも人前で歌いたいミュージシャンの気持ちを。歌いおわった後の虚しさも」 トムはこぶしを握り締める。




「笑わせるねえ。なんだ、それは。そんなに嫌なら君も早く捨てればいいのに。メンバーズカード。ここに入ってこれたという事は、持ってるんだろう?」




「ああ、持ってるよ。だけど、あそこで歌いたいわけじゃない。歌いたくもない歌を歌うくらいなら、だれも聞いてなくても、自分の歌を歌った方がマシだ」 




「哀れだねえ。ステージの快感を味わって、またいつか一度くらいと淡い期待を持ってカードを捨てられてないくせに、綺麗事か?捨てればいいじゃないか。だが、その時すべてを失うぞ?叶っていた夢を手放す事になるんだからな」




ドン!と虹色のカードを机の上に置くトム。




「これ、返すよ」




フフフ、と笑うドン。

「もう二度と出られなくなるんだぞ?ステージ。馬鹿だねえ。あれがあれば歌えたのに」




「まあ、いい」




ドンは机の上からメンバーズカードを手に取った。

「最期に教えて置いてやろうか?お前がステージを辞めた時、観客がすごい減ったよ」







「なんだと?どういうことだ?」 戸惑うトム。




「君は何も知らないのかもしれないけどねえ、ま、僕が言ってないだけなんだけどさあ。ここにいる観客。一体だれの為にきてると思う?」

ドンはカードで会場をゆびさす。




「お前が用意したんだろ。お金を払って。俺たちみたいなミュージシャンをひきつける為に、満員の観客を用意して、俺達に毎日通うように仕向けて、金を巻き上げる為に!」 

傍聴席の窓ガラスをたたくトム。

「違うねえ。僕たちは君たちのお金なんて鼻から求めていないんだよ」

「うそをつけ!」

「君は三十分いくらで歌ってるんだい?」

なめ上げるようにトムを見げながらドンは言った。




「一回1万円だろ」 答えるトム。




「はは、そんなはした金で観客全員の出席料を払えると思うかい?」

「もちろん、君が始めてきた時は、君のファンなんてどこにもいない。でもね、俺もプロでさあ。人を歓喜させて奮い立たせるような声を持つ奴らにしかここに誘わないんだよ。ここに来て歌うやつらは、そういう特殊な声を持ってるやつらばかりなんだよ。そして観客もその特殊な声をききたくてやってくる人々ばかりなんだ。世界中からね。つまり、彼らもお金を払ってるんだよ。そしてね、やはりファンなんだよ、出演してるミュージシャンのどれかのね。君もかなりのファンを持っていたようだね。君が歌わなくなってから約1割客が減ったよ」

「なに?」 眉間にしわを寄せるトム。




舞台の真ん中で歌うジョニーを見つめながらドンは言う。

「ジョニー。彼は逸材だよ。お前とタイプが違うけど。あいつが入ってから観客が1.5倍に増えたからね?信じられるか?そんなことあり得ないとおもったよ。でも、増えたんだ」

「なぁ、トム。馬鹿な悪あがきはよして、もう一度舞台に上がるんだ。お前を待ってるファンはたくさんいるぞ。今ならカードを返してやる。お前はこのカードがなければすべてを失うんだぞ?それでいいのか?」




そういわれるとトムは、カードをドンから取り上げた。




そしてびりびりとやぶいた。




「すべてを失っても好きでもない歌は歌いたくない。ここではもう歌わない。俺は信頼出来る仲間を見つけて、自分の力で歌を歌う」




「信頼出来る仲間だったか?みつかるといいねえ?まさか、いない奴は破らないからね?」




「今に出来るさ」




その場をあとにするトム。




ドンは会場を眺めながら、部屋を後にするジョニーを背に言う。

「ジョニーのリクルート、がんばるんだな。あいつはそこらへんの薬物依存者よりステージに依存しているぞ。やれるもんならやってみな」







ー30分後ー







ライブを終えて、腰の高さの扉からかがんで出てくるジョニー。




その扉の横でレンガの壁にもたれながらトムがジョニーに声をかける。

「待ってたよ」




ジョニーはかがみ腰で扉から出ながら、トムを見上げる。

「あ、さっきの。こ、ここでなにを?」

ジョニーが扉から出ると、トムはジョニーの前に立った。




「おれ、もと、ここの、クラブメンバー」




「え?そうなんですか?」




「あの夢、売ったる。ただで売ってやるから一緒にかなえようや」




「え?」




「お前、ここで歌うといつも後悔しないか?」




「え・・・」




「おれはそうだったよ。自分の歌は歌えないだろう。カラオケみたいなものを歌わされてよ。そりゃあ気持ちいいよ。それこそプロになった気分を味わえるんだからな。でも、本当にそれで満足してるか?偽者の世界でプロになって実力をみとめられてるごっこをして本当にそれがおまえの夢か?」




「・・・・」




「俺が言いたいのはな、目を覚ませってことだ。人の歌を歌ってみんなにもてはやされるより、俺は誰も聞いてくれなくても自分の歌を歌っていたい。人からもらえるものなんて、それがいくら大金でもなんの価値もないさ。俺は、どんなに、カッコ悪くたって、どんなに貧乏だって信じたことをやれる奴でいたい」




「あなたには何もわからないよ。俺がどんな思いでいるか」 ジョニーは下を向く。

「それはわからない。でもあんたには夢があるだろう。本当の。俺から買わなくなたって、自分自身の力でプロになるって夢が」

「とりあえず、ここの地図渡しておく。世界で歌う。それが俺の夢。自分自身の力でプロになる、それがあんたの夢。俺と一緒にそれぞれの夢をかなえたかったらここにきてくれ。銀河っていう喫茶店だ。そこでバンドメンバーを集めてる。あと一人くる予定だ」

地図をジョニーの手に渡すとその場をあとにするトム。







「あ、それと、俺はメンバーズカード、捨てたよ。仲間になるかならないか関係なく、音楽に本気で生きたい、そう思うなら、メンバーズカード、捨てたほうがいいぞ」

パッカーズの結成秘話③ 夢売りトムの過去 へ続く

月曜日, 2月 10

パッカーズの結成秘話③ 夢売りトムの過去


ゴールデンゲート。ひとけの多いアーケード街でもくもくと絵を描くトムがいた。いつもは風呂敷を広げておお声で客の呼び込みをしているが、今日は風呂敷も広ずに大人しくしているせいか、常連だとしても彼が誰だが分からない程だ。
そこに若者が近づいてきた。
「お兄さん。覚えてますか?前にお兄さんに夢を描いてもらったものです。フられて落ち込んでる僕に、結婚するっていう夢をくれた」
「ん?」
そこにはスーツ姿のに自由半ばの青年がたっていた。
「おー、もちろん覚えてるよ。たしか君はもう恋なんてするか、なんて言ってたよね」
「はは、そうでしたっけ?でも、今実は‥」
そう言いかけた彼に被せるかのようにトムは言った。
「左の薬指になんかハマってるね」
「そう!さすがですね。結婚したんです!お兄さんが僕に夢を下さってから、トントン拍子で話が決まって!」
「それは良かった」
トムの描いていた絵をなごめながら、青年は言う。
「ねえ、お兄さん、僕結婚したら、本当にいいお父さんになりたいんです。この間の夢は素敵だったけど、突拍子もなくお兄さんにもらった夢でした。でも、今度は僕自身で持ってる夢、いいお父さんになるという夢を絵にしてくれませんか?」
「ん、君の夢を絵に?人の夢を絵にする時は高くつくよ?」
「かまいません!お金じゃ変えない夢を頂いたおかげで今の自分がいるんですから」
「はは、よーしわかった」
何かを描き始めるトム。ふと彼はお父さんになる、とかきながら記憶の世界に引き込まれて行く。
玄関にたつ幼いトムの前に、トムの父親が靴を履いてボストンカバンをもってたっている。
「お父さん、どこにいくの?」とトムは言う。
「お腹空いたよ。ご飯いくの?それなら一緒に連れてって!」
するとお父さんはしゃがみこんでトムにいう。
「ごめんな。一緒には行けないんだ」
「なんで?連れてってよ!おなかへったよ!」
「何でかというとな、父さん失敗しちゃったんだ。遠くにいかないといけないんだ」
「失敗?何を失敗したの?」
「そうだな、思えば初めから失敗することは分かってたのかもな」
「ねえ、お父さん。ご飯連れてって!」
「ごはん、か。トム、これはな、お前をご飯に連れていけない理由じゃない。だけど、大切なこと、話しておきたいから聞いておくれ」
「トム、人と飯を食べに行くと言うものはな、いわば約束みたいなもんだ。中途半端な気持ちなら絶対に行ってはいけなかったんだ。考えてみればお父さんはそれで失敗した。これをよく覚えておくんだ。ほんとうにそいつらと仕事がしたいと思わないのなら、絶対にいくな。のりかかった船からは降りられない。たかが飯されど飯だ。心からそいつと仕事をしたい、そう思った時にはじめて人と飯をくうんだ。少しでも迷いがあるなら、いくな」
「トム。父さんは、これからお前と一緒にいてあげられない。いかないといけないんだ。お前や母さんにまで迷惑がかかるんだよ。わかるな」
「わからない!いかないで?なに?もう帰って来ないの?どういうこと?」
「お前と、最後においしいご飯食いたかったなあ。ごめんな、トム」
「お兄さん、お兄さん!」
現実の世界に引き戻されるトム。
「あ、ごめん」
手元の絵をみると、そこにはご飯を囲んで仲良く団欒する家族の絵が描かれていた。
「素敵な絵ですね!ありがとうございます!お兄さんが描いた夢、友達も持ってたんですけど、みんな叶ってるんです!すごい不思議な力が宿ってるんですね!」
気を取り戻して話をするトム。
「いつ叶うかはわからないけどね、すぐなのか、それとも遠い未来なのか」
「タンム(短夢)ってトムさんが考えたものですよね?あの、短期的な夢を、友達同士でプレゼントするっていう」
「ああ、そうだよ」
青年はポケットの定期券入れから何やらカードを引っ張り出した。そして、それをトムの目の前に提示した。
トムさんに会いに行く。実はこれ、僕が友達から持ったタンムです!笑
みるとそこには、
「夢師のトムさんに夢を売ってもらう」
と書いてあった。
「今や、タンムは社会現象ですよ。お兄さんの書いた夢も、自分で夢を書きかむタンムも、いろんな人の間でプレゼントされてますよ!」
「はは、それは良かった。みんなが夢を持って明るくなってくれれば本望さ」
「でも、その夢を兄さんが描いてる、だなんて誰も知らない。特に、今日みたいに地味にしてる時は、絶対にわかりませんよ!」
「そうかなあ。くるりと周りを見回して言うトム」
青年は時計をみると
「あ、こんな時間だ。お兄さんが夢を書き出した理由聞きたかったけど、また今度の機会に!素敵な夢、今日もありがとうございました!」
「どういたしまして。ちょっと待ってな」
トムは、青年に渡すカードの裏に
世界一幸せにする
とかいて渡す。
「君なら奥さんを世界一幸せにしてあげられるよ」
「ありがとうございます!」
「また来てくれよ!」
「一生大事にしますから!」
青年を見送ってから、つぶやくトム。
「お父さん‥か」
そして、空を見上げる。そこには、綺麗な星が輝いていた。
「今頃、どうしてんだろうなあ」
と、その横で誰かが何やらゴソゴソ準備をしているのだった。

日曜日, 2月 9

パッカーズの結成秘話④ 子守唄のマイケル



トムの横で青年がマイクスタンドをスタンバイしはじめていた。彼の名をマイケルという。

物静かそうで、優しい顔をした青年である。




トムがすかさず言う。

「おい、おい、おい、ちょっと、ここ。邪魔になるから他でやってくれねえか?」





マイケルは一瞬止まって、そして言った。
「え‥。あなたは誰ですか?」





「俺は、ここで商売やってるんだよ。お客さんがこなくなっちゃうだろ。ここではやめてくれよ」





マイケルはぐるりとあたりを見渡していった。





「ここあなたの道じゃないですよね?僕はここでやりたいと思ったから、ここでやります」









「何言ってんだ。俺はずっと前からここにいるんだよ。先約してるんだよ、場所を!」




マイケルは、トムの目もみずにフロアタイルの枯葉を足で払いのけてる。

「たしかにその風呂敷広げてるばしょはあなたが先約してるかもしれない。でもこっちの僕がマイク置いた場所は僕がさっき先約しました」





風呂敷の横ギリギリにギターケースとスピーカーを置くマイケル。マイクを設置し終わって、ギターをかたに下げる。





ちゃちゃをいれられる前に歌ってしまえ!と言わんばかりにギターをかき鳴らし、歌を歌いはじめるマイケル。曲はとてもアップテンポ。ただ、マイケルの声は柔らかくアーケード街に響いた。





「♪勝つ!勝つ!勝つ!

気持ちで勝つ!

きっと体に染み付いてるから、あとは暴れるだけ!





走れ、走れ、走れ!

あしを引っ張る地面蹴飛ばして

泳げ、泳げ、泳げ!

まとわりつくものかき分けて!

騒げ、騒げ、騒げ!

張り詰めた空気を震わせて!

地球上の頂点を勝ちとるぞ!

イェー、イェー、イェーイ!

イェー、イェー、イェーイ!♪」





彼の声を誘われてどんどん人だかりができて行く。





「♪勝つ!勝つ!勝つ!

とにかく勝つ!

声を出しまくって、魂の思いを伝えるだけ!♪」





もう人がごった返しでトムは場所を追いやられる程だ。





「♪飛べ!飛べ!飛べ!

向かい風なんて切り裂いて

投げろ!投げろ!投げろ!

のしかかる重みなど振り回し

騒げ、騒げ、騒げ!

張り詰めた空気を震わせて!

宇宙の頂点を勝ちとるぞ!

イェー、イェー、イェーイ!

イェー、イェー、イェーイ!♪」





マイケルが歌い終わると、あたりはしんと静まりかえっていた。



これだけの人だかりなのに拍手のひとつもない。



それもそのはず、観客は全員、寝ていた。





「はぁ、またか‥」





肩を落とすマイケルの背中に、トムが座りながら、声を掛ける。





「おい、お前、すごい歌唱力だな」





マイケルは、トム無視して、ギターを下ろして座り込む。

そして、ふー。とおおきなため息をつく。





「からかってるんですか?見て下さいよ。観客」




全員、眠っている。




「はは、だろうな」 笑うトム。





「どんな路上ミュージシャンみてもこんなことないですよ?退屈なんですよ」




トムは横で足を投げ出すマイケルに言う。

「退屈して寝てるんじゃないと思うぞ

歌もいい。声もいい。だけど、歌と声がマッチしてねえ。それだけだ」





マイケルは、眠りから覚め始める観客を見渡しながら空返事をする。
「語りますね」








「まあ、聞け。俺はここで何人ものストリートシンガーを見てる。その中でも、お前の歌を聞いて感激したから言うぞ。お前は、素人の俺でもわかるくらいすごい声を持ってる。こいつらは退屈して寝てるんじゃない。癒されたんだよ。お前の声に」




マイケルは、トムを振り返る。

「はあ?」





「歌は、正直癒しの歌じゃない、曲調だって全然違う。普通に歌えば、みんなが飛び上がってしまう曲だ。にもかかわらず全員が寝ている。その理由はお前の声にある」





マイケルは、言葉をうしなう。





だまってマイケルをみるトム。

「なあ、お前。俺と、組まねえか?」





「は?」





「俺と組もう。組んで世界を回ろうぜ?」





「え?どういうこと?」





「俺、あー、そうだよな。自己紹介くらいしろ。そうだろ?

俺はトム。俺も昔は音楽をやってた。今は・・・夢のために活動中だ」




マイケルは、頭をかく。

「えーと。まあ、そういうことじゃないんだけど」





「なんだよ?変か?急に誘ったら」





トムも頭をかく。





「だって、おれあなたのこと知らないし。まず第一に馬が合うかわからないし、音楽の方向性だって同じかわかんないし」





「分かった。音楽のジャンルでいうとな、なんだろうな?新しいジャンルをつくることを目指してた。世界に影響するような新しいジャンルを」





「うーん。というよりも、俺が言ってるのは自己紹介とかじゃなくてさ、こう、なていうのかな、そういうのって今ここでわかるものじゃないし。ほら、時間が必要じゃん?どこかで、以前から知ってる、とか何処かしらでなんらかの繋がりがある、とかならわかるけどさ」





「わかってる。おれもそれは同じ。君はすごい声もってる、それ以外のつながりは一切ないかもしれない。それだけしかわからない。俺だって、用心深いたちだ。あんたと本当に手を組んでいいか見極めてるところだ。でも、人としての馬が合うか合わないかはあとで決めればいいんじゃないか?音楽の方向性でも合えばとりあえず音楽活動くらいは一緒にできないか?」





「んー、とりあえずでいけばね。そうかもしれないね」





「今までは、仲間が見つからなかった。そこらへんでやってる音楽ならどいつと組んでも良かったんだ。でも、俺のやりたい音楽は一味違う。仲間と作った音楽を世界中で響かせたい。世界中どの国でも聞かれるような、どこにでも通じるような、そんな歌を作りたいんだ」




「ふーん」




「世界各国に回るんだ。例えばニューヨーク、あそこで歌う。それから、サバンナのど真ん中で、北京の中心街で」





「ほう」





「これ、みてくれ、ちょうどこんな感じだよ。

トムは、「世界を回りながら歌を歌う夢」と書かれた絵を差し出す」





マイケルは、その絵を手に取る。

そして黙りこんだあとにぼそっという。





「いい夢だね」





「だろ」




「何してる人かよくわからないけど、絵、うまいね」




「一緒に世界を回らないか?君の声は、癒しの声。色でいうとそうだな、緑かな。俺はもう一人仲間にしようと思ってるやつがいる。そいつの声は、聞いてる人の魂を奮い立たせる声。色で言うと赤だ。そいつとお前の声は最高のブレンドになる。

いいか、ここまでの話を聞いて興味があったらここにきてくれ。銀河っていう喫茶店がある。そこに明日の9時にチーム結成の会議をする」




トムはマイケルに「銀河」という喫茶店の地図を渡す。



「まあ、考えておきます」マイケルはいう。




マイケルはマイクスタンドをバッグにしまいギターをしまった。




そして、ギターケースとバッグを担ぐとトムに言った。



「考えるよ。正直、まったく過去にかかわりがなかった人と急に音楽をやるとか抵抗あるし」



「おう、前向きにね」




トムを背に金銀駅に向かうマイケル。



不思議な出会いだったなぁ、とマイケルは思う。



金銀駅の入り口まで来たとき、中のほうにある改札をみて、切符を買う為にさっと財布を開けた。



と、同時に財布から一枚の紙がひらりと落ちた。





タンムだった。そこには、こう書いてあった。





「乗り気じゃなくてもとりあえずやってみる」





タンムを右手で拾い上げて、左手に持つ銀河の地図をみる。



そして大きくため息をつく。





「でも、あの人となんのかかわりもないしなあ‥」




マイケルは、金銀駅の入り口の前で空を見上げる。



そこには、真っ黒でキラキラと光る銀河が広がっていた。マイケルは、タンムの作者が、まさかトムであり、タンムを通して関わり合いがあることを、この時点では全く気付いていないのだった。

土曜日, 2月 8

パッカーズの結成秘話⑤ 異次元空間喫茶 銀河

喫茶店。店のドアの上に「銀河」とかかれた看板がかかっている。
CLOSEとドアの窓の向こうは真っ暗闇だ。
鍵でもかかってるのではないか、と恐る恐るマイケルがドアを押すと、すんなりドアは開いた。
中に入る。
するとそこはまるで宇宙空間のような漆黒で煌びやかな世界が広がっていた。
真っ暗な空間にキラキラと光る天井。
満点星の下で回る惑星のように神秘的に光る丸テーブルが丸く8つならべられている。
各テーブルにはぼんやりと神秘的な光がともっている。
心が休まる香りが漂う、それはどこかで嗅いだことがあるのだが、なるほど、宇宙に香りがあるとすれば、こんな香りだろうとマイケルは思った。
銀河には、木琴と、鉄琴がやさしく、ゆっくりと、交互に、メロディーを奏でていた。
その8つのテーブルに1人ぽつんと座る人がいる。
そこには、ジョニーが座ってまっていた。
マイケルは、CLOSEと書かれている店で1人で座っているジョニーを、直感的にトムに呼ばれた人だと確信した。
ジョニーのテーブルには5冊以上のノートが重ねられている。そこには作曲集とかいてある。彼が開けているA4のノートには、みっちりと歌詞、コードが書かれている。1ページ1曲書いてある。それが5冊。一体、どれだけの作品があるのだろう。マイケルは驚くと同時に、自らと同じように音楽を熱意に持つ人が呼ばれていることに安心し、そしてシンに声をかけた。
「どうも」
とマイケルが挨拶をする。
「あ、どうも」
隣のテーブルに座るマイケル。
マイケルはぼんやりと光る月をモチーフにした時計をみた。
約束の時間の20分前であり、時間があることを確認すると、ジョニーに話しかける。
「トムを知ってますか?あの私マイケルといいます」
「あ、僕はジョニーです。僕もトムによばれました」
「あぁ、そういうことですね。はは・・・。でも、実はまだ迷ってます」
マイケルは、テーブルにひじを突きながら指を組み、うつむいた。
「はは、私もです。さっきまで5分くらい喫茶店の前でうろうろ迷ったんですけど、この店の中を少し覗いたら入らずにはいられなくてね」
ジョニーは、マイケルにいう。
「それ、なんですか?」マイケルは聞く。
「あぁ、これは、詩です。ずっと、これ書き続けてるんです」
とそのときだった。
銀河のドアがギィと開く。
そこには、黒いマントを羽織った大柄な男が立っていた。
なんと、それはドンだった。
「やあ、またせたね。トムのかわりに頼まれてね」
ドンは、そういうと2人にニヤリと微笑みかけた。


ーその10分後

銀河のドアを開けるトムがいた。
中をのぞくと幻想的な空間が広がっており、そこには、だれ一人としていなかった。
トムは、月の時計を見て
「まだ、あと10分あるから」
そう言って丸テーブルに腰掛ける。と、丸テーブルには一枚のカードがおいてる。
虹色をしている。
そう、ドンが経営するアルテメッドクラブのメンバーズカードだった。
トムは驚いたようにそれを手に取る。
裏を向けるとそこにはメッセージがかかれていた。
「いつでも、戻ってきたまえ。仲間と一緒に歌おうじゃないか」

「ドン・・・」 そう言って唇をかみ締めると、トムは銀河を飛び出した。

金曜日, 2月 7

パッカーズの結成秘話⑥ 大切なもの

トムがアルテメッドクラブのドンの部屋にかけつけるとそこには、社長いすに座るドンとその机の前にたたされているジョニーがいた。部屋から見渡せる舞台ではマイケルがとても気持ちよさそうに歌っていた。観客は左右に揺れ、マイケルの声に癒されているようだった。
「ドン!一体どういうつもりだ!」
トムは開口一番叫んだ。
ドンは、座ったまま、トムに答える。
「やぁ、トム。ちょうどいいところにきた。君からも言ってくれないか。
もう曲は作らなくていいということを」
トムに見向きもせず、ジョニーは両手を広げて必死にドンに訴える。
「お願いします。もし、ドンさんが言うように、僕にファンがいるのなら、きっと喜んでくれると思います。自分の歌、歌わせてください。そしたら、曲を準備いただく手間も省けますし」
「いくら言っても駄目だ。ねぇ、トム、どう思う?」ドンは言う。
トムは、ドンの方を向くジョニーに言う。
「ジョニー、俺と一緒に行こう。ドンは、俺の仲間じゃないんだ」
ピタリとジョニーの動きが止まる。
「知ってるよ」
ドンがにやりと笑う。
「だけど、俺はここに残る」
ジョニーはそう、はっきりと言って、トムを見た。
「ここに残る?お前言ってたじゃないか。音楽を通して自分の想いを伝えたいって。ミュージシャンが想いを伝えるのは声を通してだけじゃない。声やメロディーや歌詞や全てを使って自分の想いを伝えるんだ。ここにいたら自分の歌は歌えないぞ。声だけじゃお前の想いは届かないぞ。俺はお前の目を見た瞬間、どこのミュージシャンよりも想いが溢れていることがわかった。だから一緒に音楽をやりたい。そう思った。それでいいのか?」
「あんたの絵には不思議な力がある。諦めて心の奥底にしまっていた本当の夢に気づかせてくれる。だから、あの時、世界を回るという夢を見たとき。あの絵がほしいと思ったんだ。きっと、心から歌が歌えると思ったから」
「じゃあ・・・」 トムは手を差し伸べる。
「だけど、俺はここに自分のファンが少しでもいることを知った今、中途半端にやめることはできない。ここには、俺を待ってくれるファンの人たちがいるから」
ガハハと笑う。
「その心行き気に入ったぞ」
ジョニーは、ドンに一礼する。
「ありがとうございます」
「だがなぁ、やっぱりこれはだめだ」
作曲集と書いてあるノートを手にとるドン。それは、ジョニーが銀河でも書き込んでいた過去から歌を蓄積してきたノートだった。
「お前には声に集中してほしいんだ。それに、こんなものがあると、裏切りのもとだ。今回みたいなね」
そいういうと、ドンは作曲集にライターで火をつけた。
「あ!」
ジョニーは一歩前に乗り出す。
「おい!何をする!」
ノートを取り上げようとつかみかかった手をさらりとかわしてドンは言う。
「なんだあ?態度が悪いぞ。これも燃やすぞ?」
そういってドンは虹色のカードを手に取る。それは、ジョニーのメンバーズカードだった。
「お前は裏切ろうとしたな。本当だったら永久追放のところを今回特別に許してやるんだぞ?なんか文句があるか?」
ノートはパチパチと音を立てて燃える。炎はノートからノートに燃え移り大きくなった。
(いつか有名になったらお客さんを飽きさせないように、色んな歌を作っておくんだ)
ジョニーは唇をかみ締めこぶしを振り上げる。だが、震える手を押さえ、顔を伏せる。
「いいえ、ありません」
伏せた顔からはしずくが零れ落ちる。
ガハハ!
「なんてことを‥」
トムは怒りに震える。
ドンは時計を見る。
「時間だよ、ジョニー」

「はい、行ってきます」
トムとすれ違い様にジョニーはうつむいたまま立ち止まり言った。
「悪かったね。夢・・・、かなえられるといいね」
コツ、コツ、コツ。ジョニーが出口に向かう。
ジョニーがちょうどドアの前に差し掛かった時、トムは言った。
「お前が、俺に語ったことはうそだったのか?」
そして、部屋中に響き渡る声でトムは言った。
「いいなりになって歌って想いを届けられるわけねえだろ!」
今度は、ジョニーが、叫ぶ
「うるせぇ!」
ジョニーが振り向く。振り向いたジョニーの目からは涙が流れ続けていた。
「本当の想いを届けたくったって、術が残されてなければ、今やれることをやるしかねえだろ」

バタン。ドアが閉まる。
「ドン‥血も涙もないのか」
トムは、ドンを睨みつける。

「トム・・・。いつまでも夢をみるのはやめろ。ジョニーみたいにもっと現実的にならなきゃなぁ。もっとも、俺にも昔、夢とにたようなもんを信じてたころがあったなぁ」

上を見上げて、そして恥じるように鼻で笑うドン。
それを、じっと睨みつけるトム。
舞台の歓声が遠くから聞こえてくる。マイケルがおじぎをしている。
「トム、安心しろ。あいつらのポテンシャルは120%利用してやる。お前の言うとおり、ジョニーとマイケルの声は最高のブレンドになるからな」
演奏が終わったのに、マイケルは舞台袖にはけずに舞台の真ん中でたっていた。誰かを待つかのように。そして、しばらくすると舞台にジョニーが上がる。

「ユニットにしたよ。彼らを」
観客は大盛り上がりになる。


「おい、ドン!」

「それがお前の正義か?」
ドンは、視点を合わせることなく、その言葉を受け流している。
「お前がお前のやり方でやるなら俺は俺なりのやり方でお前と真っ向から戦ってやる。覚悟しろ」
トムは部屋を後にする。

ドンは、舞台のほうに向き直る。
舞台ではジョニーとトムは歌っている。心に痛みを抱えながら。

ふと、トムの言葉が頭に浮かぶ。
(それがお前の正義か?)
とその瞬間、思い切り机を殴りつけるドン。
「正義?夢?そんなもんで何かを変えられると勘違いをしている馬鹿が!やれるもんならやってみろ!叩き潰してやる!」

木曜日, 2月 6

パッカーズの結成秘⑦ 夢と正義の向こう側

ジョニーとマイケルは、舞台上で大盛り上がりで歌っていた。ナンバーは、あのストリートミュージックの定番を作ったC-SOだった。
ベーシックアンドカジュアルを持ち味にしたC-SOの歌は、ストリートミュージシャンが挨拶代わりに歌う歌となった。その歌で人々はストリートミュージシャンの力量を判断する文化が定着した。C-SOは、ストリートの神風と呼ばれた。
そのC-SOの歌を歌う2人。
観客は、歓声を上げる。そう、それはこのアルテメッドクラブ始まって以来の大盛況だった。観客と音楽が合わさった時、地鳴りがする、という伝説があるが、その地鳴りが、現実のものになろうとしていた。
と、その時だった、2人の後方にあるスクリーンに絵が映し出された。
「心がこもった本物の歌を聴きたい by夢師 トム」
観客は、否応もなく、それを見た。
ジョニーとマイケルは歌い続ける。
だが、歓声が止まる。そして、会場はざわつき始める。
ザワザワ‥。
「あれ、なんだ、この歌の感じ」
「おい、あの2人、声は最高なんだけど‥。なんだかな、やる気あんのか?」
ザワザワ‥。
「声だけじゃねえか!」
「金返せ!この野郎!」
会場からヤジがとぶ。
ジョニーとマイケルは手を止める。戸惑いを隠せない。
と、袖からトムが出てくる。
遠く離れた、ガラス張りの部屋から舞台を眺めていたドンが目を疑う。小型マイクで指示を出す。
「おい、裏方、てめえ何やってんだ!?今舞台にあがっていった小僧をつまみだせ!」
裏方はスポットライトを、ジョニー、マイケル、トムに当てるよう操作し、彼らに協力している。その手には、夢が握られている。
「ミュージシャンをフルサポートする最高の裏方になる」
ドンが持つマイクの向こう側の裏方からはなんの反応もない。ただ、スポットライトが舞台の中心に歩いていくトムに当てられる。ドンは、怒鳴る。
「ちくしょう!」
舞台に立ったトムは、マイケルとジョニーに色紙を渡す。そう、それは世界をわまりながら音楽をする、というあの夢だった。
ジョニーは、それを見て、バックスクリーンを見ると、理解した様子で言った。
「やっぱり、観客にはばれてたんだね。一生懸命気持ち入れようとしても、いれきれなかったこと」
ジョニーは、もうわけなさそうに苦笑いする。
「トムさん。どうやら、俺にはファンがいなくなったみたいだよ。ファンがいるから、ここにいようと思ってたのに、なんかいる理由もなくなっちゃったな」
トムはうなづく。
その横にいるマイケルは、トムにたったいま手渡された色紙を見て、それからトムを、見る。
「この絵‥。あんたが描いたのか‥。全然、関わりなくて全くの初対面だと思ってたよ。話に乗るか乗らまいか悩んでたけど、どうやら、知らないところで繋がってたみたいだし‥」
トムが、手を差し出す。そこに、ジョニー、マイケルが手を乗せる。全員が目をお互いに合わせた。
そして、トムはポケットから、紙をもう一枚おもむろにだす。それは、長期的な夢に気づかせてくれる「夢」とは別にある、短期的な夢に気づかせてくれる「タンム」だった。

「今までの感謝の想いを込めて、会場のみんなに歌を歌う、そして、これからの未来に向けて」
トムは2人に言う。
「ここじゃあ、さすがに自分の歌は歌えないからな。C-SOのナンバーを、替え歌で‥どうだい」
ジョニーは親指を立てる。マイケルは、うなづく。
マイクにジョニーが近づき、言う。
「次の曲行きます。C-SOで、明日を目指して」
マイケル、ジョニー、トムが歌い出す。
すると、さっきまであった野次はピタリととまり、再び歓声が蘇る。
「いいぞー!」
「最高だ!こんな歌を聴いたの始めてだ!」
会場が一体となる。そして、地鳴りが生まれ始める。そしてそれは、大きな波となって、会場全体を、包み込んだ。
彼らが歌い終わると、会場からは、今までにない大きな拍手喝采がなり響いた。
「どうも、今までありがとうございました!みなさん、ごきげんよう!」
肩を組み、握手をし、楽しそうに喜びを分かち合う3人。
トムは、ジョニーとマイケルを見て、何か言おうとして一瞬止まる。
(いいか、トム。本当に仕事がしたいと思った時にしか飯は食いに行くな)
「よーし、みんな!飯食いに行くぞ!」
「そうこなくっちゃ!」
トムと、ジョニーが先に舞台袖にはけていく。舞台の上で、ジョニーはおもむろにポケットに手を伸ばす。それは、メンバーズカードだった。
(仲間になるかならないか関係なく、音楽に本気で生きたい、そう思うなら、メンバーズカード、捨てたほうがいいぞ)
ジョニーは、メンバーズカードをビリビリと破る。そして、2人の後を追いかけて行く。
観客は帰っていく。まるで、3人の退場が、彼らのアルテメッドクラブの閉店時刻であるかのように。
ドンは、それをみて、ガラスを思い切り叩く。
「くそう!!」
と、会場のバックスクリーンに何かが映し出される。
「正義を貫き通す by夢師 トム」
膝から崩れ落ちる、ドン。
「もう一度‥。1からやり直しか‥。なあ」
ドンは、涙ながらも救われた顔で天を見上げる。

アルテメッドクラブを出て、町の中に消えていく歩く3人。

2014年2月28日
パッカーズ
結成。

水曜日, 2月 5

パッカーズ番外編① 正義を追い求めた男、ドン

ドンには、彼の人生を一変させる忌まわしい事件があった。

ドンは、若かれし時、弱者を守り、悪を制し、秩序を保つ正義を貫くために正義隊に入隊した。正義隊とは、犯罪の取り締まり、犯人逮捕を担うチームのことだ。
ドンは、誰よりも正義感に溢れる男だった。彼は異例の早さで出世し、ついにエリートが集まる宝石市の本部に配属となった。そこには、ドンが憧れていた正義隊の隊長、ミスターライトがいた。ミスターライトは、数々の事件に関わってきた、生きた伝説、と言われる人物だった。我が国最大の組織と言われたスリースターの解体を主導したのも彼だった。

ドンは、そのミスターライトに憧れて正義隊に入隊したと言っても過言ではなかった。

ドンが担当になったのは、宝石市最大の犯罪集団、クライム団のヘッド、ドクターブラックが起こした事件だった。憧れの人の近くで働けることとなってドンは一生懸命働いた。

彼は次から次に事件の真相を突き詰めて行った。そして、なんと当初、指令をうけていなかった、ドクターブラックを逮捕できる徹底的証拠を突き詰めた。

その功績をあげた当日、逮捕を翌日に控えた日に、彼はミスターライトのオフィスに呼ばれた。それは、ドンが、ミスターライトと話す初めての機会だった。ドンは、ワクワクしていた。仕事だが、正義とは何か、そんな精神論も是非教えて欲しいと思っていた。

ドンがオフィスに入るとミスターライトは、葉巻を吸いながら、彼を迎えた。ドンの1メートル80、体重90キロの巨大が、1メートル90、体重120キロのミスターライトの前では小さく見える。

「座りたまえ」

「失礼します」

ドンは、ミスターライトはの机の前の椅子に腰掛けた。

「単刀直入に言おう。ドン君」

椅子にふんぞりらかえりながらミスターライトは言った。

「明日から、君は、石炭村の正義担当になってもらう」

「はい?」

「今日をもって、ドクターブラックの件には一切口出しをするな。荷物をまとめて、石炭村の勤務に、明日の8時から従事するように」

ドンは、一瞬、何を言われているのか理解できなかった。正義の為にがむしゃらにやってきた。それなりの功績を上げてきたつもりだ。それに、今日、今までにない、ドクターブラックを逮捕する証拠を見つけた快挙を上げたというのに、地方の石炭村?実質、左遷じゃないか。何より、ドンには、自分の左遷により、宝石市の一番の悪をみすみす見逃すことが我慢ならなかった。

「隊長!楯突くわけではありませんし、自惚れているわけでもないですが、この事件解決には、事件当初から関わっている私が必要だと思います。あと1日で、ドクターブラックを捕まえてみせます。どうか、1日猶予を頂けませんか?確実にやりとげますので」

ミスターライトは、葉巻をすって煙を吹く。

「駄目だ。大体に、君の当初の任務はなんだ?クライム団が商売として営む、中毒性があると言われる音楽家の仮装舞台の摘発だろう。ドクターブラックを捕まえるなんてものじゃなかったはずだ。余計なものに顔を突っ込むな」

ミスターライトは、葉巻から出た煙を目で追いかけながら言う。

ドンは、そのとき悟った。自らの左遷は、何らかの理由で、ドクターブラックを逃がすための、図らいだと。

「隊長。どのような背景があるかは分かりませんが、私には正義を貫く使命があります。明日の異動の件、いくら隊長からであっても、うけることはできません。私には、正義を曲げられませんから」

ミスターライトは、目を細めて、そして、葉巻を灰皿にグリグリと擦り付けた。そして、前のめりになり、声を低めて言った。

「なあ、ドンくん。君には、綺麗な奥さんとかわいい息子さんがいるようだねえ。ずいぶん、かわいがってるみたいじゃないか」

ドンは、我慢ならなくなった。そして、ついに声を荒げる。

「それが!これと!どう関係があるっ!」

ドンの巨体から出る怒鳴り声は机をミリミリと震わせた。

だが、ミスターライトの巨体は、それに全く動じない。

「関係があるかどうかは自分で考えたまえ。それだけ、怒るところを見ると、さぞ家族が大事なんだな。やはり、明日、転勤して、家族と幸せに暮らすがいい。それがいい」

今まで、伏目がちで喋っていた、ミスターライトは、急にドンの目をグッと見返した。ドンは、その時、ミスターライトの瞳の奥におぞましい何かを感じた。身震いする体を抑えるドン。

「いや、家族と幸せに暮らしたいなら、明日から石炭村に行く。それしかない」

ドンは、怒りに震えながらも、一言も発することが出来なかった。そして、ミスターライトは、更に、低く、ゆっくりとした口調でドンに詰め寄った。

「正義とはな、悪でもないし、もともと正義でもない。勝つから正義になる。これを、よく、覚えておくんだ」


ドカン!

ミスターライトの机には、垂直に振り下ろされたドンの拳がめり込んでいた。

「決着をつけましょうよ。正義は勝ち負けで決まるもんじゃない。正義は正義。悪は悪。これが僕の考えです。どちらがただしいか、白黒つけましょう」

ドンは、ミスターライトの部屋を後にする。表情をひとつ変えないミスターライト。



その翌日、ドンがドクターブラックを逮捕したことは新聞に大々的に取り上げられた。彼はたちまち宝石市のスターになった。家族は正義隊の護衛部隊で完全防護をする用意周到振り。正義のヒーロー。そう新聞各社は彼を持ち上げた。正義隊の中では表彰をされ、昇格も決定。
そして、間も無く、ミスターライトは辞任をした。ドンが、ミスターライトのことをを告げ口をしたわけではない。事件後も彼の立場は確固たるものだった。男のケジメというものか‥。ドンは複雑な思いでいた。

ミスターライトが旅立つ時、彼はドンにこう言った。

「男は、勝ち負けが全て。負けたら、勝者に従わないとね。そうだろ?ドン君」

ミスターライトは、口が裂けそうなくらい大きく微笑み、その場を後にした。

隊長として引き継ぐことになったドンは、ミスターライトがいなくなったオフィスに、一人座っていた。真夜中、誰もいなくなった事務所。ドンはミスターライトとのやりとりを思い出していた。

(余計なものに顔をつっこむな)

俺は、踏み込んではいけないものに、踏み込んではしまったのか?いや、それが正義だ。俺は正しいことをした。

(家族と幸せに暮らしたいなら、明日から石炭村に行く。それしかない)

(男は、勝ち負けが全て。負けたら、勝者に従わないとね。そうだろ?ドン君)

その言葉に続く彼の笑み。ドンは、ブルッと武者震いした。そして途端に、急に嫌な予感がして彼は家に急いだ。


彼が、家に帰ると、正義隊の護衛もむなしく、彼の家族は、惨殺されていた。翌日、彼の家族の不幸は新聞に大々的に報じられた。クライム団の報復と報じられたが、犯人の証拠は何一つ出てこなかった。加えて、ドクターブラックは、間も無く釈放された。ドクターブラックに関しては証拠は全て揃っているはずだったにも拘らず、それが裁判所の最終判断だった。ミスターライトの消息も一切途絶えていた。
全ては、ドンが到底太刀打ちできない巨大な力で、初めから仕組まれていたのだった。



葬式の中、ドンは、妻と息子の慰霊を見ながら、当日の朝、玄関での笑顔を思い出す。

「あなた、今日も正義の為に頑張ってね」

「パパ!応援してるよ!」

正座をしながら、太ももに置く手で、ズボンを握りしめる。

「正義?一体どこに正義があった?俺の正義はなんだった?ミスターライトが忠告していた。妻と子供の命に危険があると」

決して涙を見せない、鉄人と言われたドンの目から滝のような涙が流れる。

「妻と子供ための、正義は俺にはあったか?正義、正義、って、俺の正義は、一体、なんだったんだ!!」

泣き崩れるドンの頭に蘇るミスターライトの声。

(正義とはな、悪でもないし、もともと正義でもない。勝つから正義になる)
(男は、勝ち負けが全て。負けたら、勝者に従わないとね。そうだろ?ドン君)

その時のドンについて、関係者は語る。彼はその時、鬼の目、をしていた、と。

その通夜から、ドンは忽然と姿をけした。風の噂で、クライム団と同じ手法で闇の商売をはじめたとの情報が入った。しかし、哀れな男、ドンを逮捕しようとするものはいかなったという。