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木曜日, 2月 6

パッカーズの結成秘⑦ 夢と正義の向こう側

ジョニーとマイケルは、舞台上で大盛り上がりで歌っていた。ナンバーは、あのストリートミュージックの定番を作ったC-SOだった。
ベーシックアンドカジュアルを持ち味にしたC-SOの歌は、ストリートミュージシャンが挨拶代わりに歌う歌となった。その歌で人々はストリートミュージシャンの力量を判断する文化が定着した。C-SOは、ストリートの神風と呼ばれた。
そのC-SOの歌を歌う2人。
観客は、歓声を上げる。そう、それはこのアルテメッドクラブ始まって以来の大盛況だった。観客と音楽が合わさった時、地鳴りがする、という伝説があるが、その地鳴りが、現実のものになろうとしていた。
と、その時だった、2人の後方にあるスクリーンに絵が映し出された。
「心がこもった本物の歌を聴きたい by夢師 トム」
観客は、否応もなく、それを見た。
ジョニーとマイケルは歌い続ける。
だが、歓声が止まる。そして、会場はざわつき始める。
ザワザワ‥。
「あれ、なんだ、この歌の感じ」
「おい、あの2人、声は最高なんだけど‥。なんだかな、やる気あんのか?」
ザワザワ‥。
「声だけじゃねえか!」
「金返せ!この野郎!」
会場からヤジがとぶ。
ジョニーとマイケルは手を止める。戸惑いを隠せない。
と、袖からトムが出てくる。
遠く離れた、ガラス張りの部屋から舞台を眺めていたドンが目を疑う。小型マイクで指示を出す。
「おい、裏方、てめえ何やってんだ!?今舞台にあがっていった小僧をつまみだせ!」
裏方はスポットライトを、ジョニー、マイケル、トムに当てるよう操作し、彼らに協力している。その手には、夢が握られている。
「ミュージシャンをフルサポートする最高の裏方になる」
ドンが持つマイクの向こう側の裏方からはなんの反応もない。ただ、スポットライトが舞台の中心に歩いていくトムに当てられる。ドンは、怒鳴る。
「ちくしょう!」
舞台に立ったトムは、マイケルとジョニーに色紙を渡す。そう、それは世界をわまりながら音楽をする、というあの夢だった。
ジョニーは、それを見て、バックスクリーンを見ると、理解した様子で言った。
「やっぱり、観客にはばれてたんだね。一生懸命気持ち入れようとしても、いれきれなかったこと」
ジョニーは、もうわけなさそうに苦笑いする。
「トムさん。どうやら、俺にはファンがいなくなったみたいだよ。ファンがいるから、ここにいようと思ってたのに、なんかいる理由もなくなっちゃったな」
トムはうなづく。
その横にいるマイケルは、トムにたったいま手渡された色紙を見て、それからトムを、見る。
「この絵‥。あんたが描いたのか‥。全然、関わりなくて全くの初対面だと思ってたよ。話に乗るか乗らまいか悩んでたけど、どうやら、知らないところで繋がってたみたいだし‥」
トムが、手を差し出す。そこに、ジョニー、マイケルが手を乗せる。全員が目をお互いに合わせた。
そして、トムはポケットから、紙をもう一枚おもむろにだす。それは、長期的な夢に気づかせてくれる「夢」とは別にある、短期的な夢に気づかせてくれる「タンム」だった。

「今までの感謝の想いを込めて、会場のみんなに歌を歌う、そして、これからの未来に向けて」
トムは2人に言う。
「ここじゃあ、さすがに自分の歌は歌えないからな。C-SOのナンバーを、替え歌で‥どうだい」
ジョニーは親指を立てる。マイケルは、うなづく。
マイクにジョニーが近づき、言う。
「次の曲行きます。C-SOで、明日を目指して」
マイケル、ジョニー、トムが歌い出す。
すると、さっきまであった野次はピタリととまり、再び歓声が蘇る。
「いいぞー!」
「最高だ!こんな歌を聴いたの始めてだ!」
会場が一体となる。そして、地鳴りが生まれ始める。そしてそれは、大きな波となって、会場全体を、包み込んだ。
彼らが歌い終わると、会場からは、今までにない大きな拍手喝采がなり響いた。
「どうも、今までありがとうございました!みなさん、ごきげんよう!」
肩を組み、握手をし、楽しそうに喜びを分かち合う3人。
トムは、ジョニーとマイケルを見て、何か言おうとして一瞬止まる。
(いいか、トム。本当に仕事がしたいと思った時にしか飯は食いに行くな)
「よーし、みんな!飯食いに行くぞ!」
「そうこなくっちゃ!」
トムと、ジョニーが先に舞台袖にはけていく。舞台の上で、ジョニーはおもむろにポケットに手を伸ばす。それは、メンバーズカードだった。
(仲間になるかならないか関係なく、音楽に本気で生きたい、そう思うなら、メンバーズカード、捨てたほうがいいぞ)
ジョニーは、メンバーズカードをビリビリと破る。そして、2人の後を追いかけて行く。
観客は帰っていく。まるで、3人の退場が、彼らのアルテメッドクラブの閉店時刻であるかのように。
ドンは、それをみて、ガラスを思い切り叩く。
「くそう!!」
と、会場のバックスクリーンに何かが映し出される。
「正義を貫き通す by夢師 トム」
膝から崩れ落ちる、ドン。
「もう一度‥。1からやり直しか‥。なあ」
ドンは、涙ながらも救われた顔で天を見上げる。

アルテメッドクラブを出て、町の中に消えていく歩く3人。

2014年2月28日
パッカーズ
結成。