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水曜日, 2月 12

パッカーズの結成秘話① ゴールデンゲートでの出会い

黄金町のゴールデンゲートと呼ばれるアーケード街。
その入り口付近で青年が一人路上ライブをしている。
青年の周りには見る見る人が集まってくる。
青年の前で座って聞くのが5人、
その後ろで立って聞いてるのが10人、
それより少し離れて柱にもたれたり、立ち止まって聞きいる人30人程度が彼を囲う。
人々が集まるにつれて、青年の顔が明るくなっていく。
手拍子が始まると、彼はにっこりと微笑みながら目を瞑った。
この時間が世界で一番好きだった。
世界の時間が止まる時間。
真っ白でなにもない空間に歌声だけが通り抜けていく。
ふと、さっきまでじぶんの歌声と一緒に聞こえていた街のざわめきが、電源を切ったかこかのように静かになる。
妙に静かだ。
あれ、と青年は間奏ようにのギターを弾きながら目をゆっくりとあける。
え、なんで?
目の前で座って聞いていた人、その後ろで立っている人、それより少し離れて柱にもたれたり、立ち止まっていた人。全員が目をつぶって、眠ってしまっている。
え、なんで、なんで寝てるの?
アーケート街の人々の流れは彼の周りで滞っていた。彼の名はマイケルという。


ところとに日付が変わってアーケード街のゴールデンゲートの入り口で威勢のいい声が聞こえる。
「夢売ってるよ。そこのお兄さん、夢あるかい?ないなら夢を売ってるよ!一個500円だよ」
その日は、土砂降りの雨で、台風がやってくるとの事で、人通りはほとんどなかった。
でも、彼はこんな調子で晴れの日だろうが雨の日だろうが夢を売っているのである。
路上で一畳程の大風呂敷にポストカードサイズの絵を並べてある。
風呂敷の端のすぐ奥にちょうど腰掛けになるくらいの切り株が置いてあり、
そこにトムは座って大きな声で客引きをしている。
「今なら一番人気、お金持ちになるって夢をなんと特別価格、500円!
普通の夢と変わらない?
この夢は億万長者になる夢だぞ?
安いもんでしょう?ええ?そうでしょう?
他にもたくさんあるよ、100以上はある!
よって見てってくださいよ!
自分の夢は流石に売れない、非売品。
だけど、俺の夢よりもっと素敵な夢をたった500円で譲るよ!
さーさ、買った買った〜!」
彼の名前はトム。毎日、ここ黄金町のゴールデンゲートの歩道で自作のアートを販売しているのだ。
「そんなに急ぎ足でどこに行くの?
夢も無いのに命だけ大事にしてどう生きて行くの?
台風から隠れるよりも、人生の嵐を乗り切る為の道標が先に必要なんじゃないかい?
この台風でも、彼の前を通ると大抵の人は足を止める。
台風が無ければいつもは人だかりで夢が買いたくても買えない。
だから、夢を買うのが夢、なんて夢を持つ人々もでて来たくらいだ。
だが、さすがに台風が直撃する頃にはひとっこ一人いなくなってしまった。
トムは一息ついて、大振りのリュックから袋を取り出して、そこから一枚の絵を取り出した。
楽器を弾く三人のミュージシャンと、それを囲うように寄り添う世界中の人々が、みんな笑顔で歌っている絵。
「音楽で世界を回る」
そう一言大きく描いてある。
裏には
「歌詞は、たった3つの言葉で出来てる。
世界中どこにでも存在して、シンプルで素晴らしい言葉。
人間ってみんな一緒なんだ。そう思える言葉。
それを、歌いながら世界中を回る」
とある。それをマジマジと読んでトムは、
「これは売れないよ非売品」
と小さくつぶやく。
「それ、なかなか素敵な夢ですね」
トムは、はっとする。
後ろには、ケンの持つ夢カードを覗き込む青年が立っている。
トムはとっさにそれを隠す。
青年はトムにお構い無しに話す。
「そんなことしてみたいな。歌って世界を回る、か」
トムは慌てる。
「ちょっと、それ口に出して言わないでもらえる?これは、非売品で、極秘の夢だから」
青年はひるまない。
「‥どこにでもあって、シンプルで素晴らしい言葉。なんだろう?愛してる、とか?」
固まるケン、顔の血の気がみるみる引いていく。
そして、トムは眉毛を下げて、力なういう。
「おま、何で言っちゃうの?」
きょろきょろ回りを見ながら、人差し指でシーッとジェスチャーをする。
「ハハ、誰も聞いて無いですよ!ごめんなさい。本当にすごいいい夢だなと思って!」
トムは、ハー、とため息をついてカードを放り投げる。
「もうやめた。この夢いらないや」
「もうすてよ!」
絵がゴールデンゲートの汚れたフロアに落ちる。
それを、拾い上げる青年。
「捨てるなら、もらっていい?この夢?」
「だめ、君はだめだ」
トムは、青年の手からその絵をさっと奪い返し、かばんにしまった。
青年は頭をかきながら言った。
「ねえ、お兄さん。僕にも、なんか夢、くれませんか?」
「ん?ないの?夢」
「いいよ。お金もらうけど」
トムのまなざしが変わる。
「君は何をお仕事にしてるの?というか名前は?」
青年は答える。
「僕、ジョニーといいます。ミュージシャンやってるんです」
トムは幾分驚いた顔をしながら、まじまじと彼のつま先から頭まで見直した。
「見た目的にはフォークシンガー?それなら尚更あの夢は見せたく無かったなあ」
ジョニーは笑う。
「そうですね、あの夢欲しいんですけど頂けませんか?」
ジッと目を見るトム。
それをジッと見つめ返すジョニー。
「ちょっと待ってな」
トムは何かを描き始める。
「この夢なら売ってやるよ」
トムは、即興で書き上げた絵をジョニーに手渡す。
それは
「大勢の観客の前で歌う」
という夢だった。
笑顔でその絵を受け取ったジョニーの表情が、急に硬くなる。
「こんな夢なら要らないよ」
絵をトムにつき返す。そして、絵の代金を入れる箱に、500円玉を入れたかと思うと、その場を立ち去ろうとする。
「おい、ちょっと」
といって戸惑うトム。
「でもいいもの見せてもらった。またいい夢できてないか見にくるよ。
もう少しマシな夢作っておいてよね、こっちは夢がなくて困ってるんだからさ。
非売品の夢、いつか売ってよね!」
ジョニーはアーケード街を後に嵐の街に入っていく。
「おい、待てよ」
あっという間に風の中に消えて行くジョニー。
「話はこれからだったのに」
何かいいたげに嵐を見つめるトム。 


パッカーズの結成秘話② ミュージシャンの夢の会場 に続く
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